トランスパラント・フットプリント

ちはやブルーフィルム倉庫

諦点観測(プロット状態)

 ぼくらは、諦めることで生きている。

 

1、エンカウント

「どうでもいいけどきみは欲張りすぎだ。二兎を追う者は一兎も得ず。このことわざはきっと、いくらきみに学がなかろうと、きっと人生の最初のほうで、覚えてるはずだ」

「知ってる、切り株の前でじっと兎がぶつかるの待ってるんでしょ? それって、あなたのことじゃない」

「いやそれ違うよ、全然違う。それにぼくは兎がぶつかるのをじっと待っているとかそんな時間の無駄はしない」

「そうかしら、それは成功者の繰り言よ」

「誰が成功者だって? ぼくは成功からも失敗からも目を背けて生きてきたんだ。これからもね」

 指さす。

「ひとを指さすもんじゃない、しかも目上だ」

「あら、あらあら。あなた会ったばかりの女の子よりも目上のつもり?」

「だってきみ、年いくつだよ」

「年齢! 年齢で立場が上だと主張したいの? 国学が儒学とか? たいへんねえ、そのうち火で炙られて土に埋められ便所に捨てられるタイプの人間ねあなた、順不同」

「最初に炙られた方が楽そうだねそれ、ていうかぼく学者じゃないしね、そういう危ない橋を渡るつもりもないよ」

 

2、あきらめないひとたち

 

「どう? 諦めなければ手に入るものよ」

「そういうのはただのゴネ得っていうんだ」

「正当な権利だもの、もらえるものはもらっておくものよ、そうしないと、いつ足りなくなるかわからないじゃない」

「おまえみたいな奴がいるから、貧富の差がなくならないんだ。もっとこう、分相応を知るべきじゃないかな」

「あら、その分というのは、いったい誰が決めるの? それに従わなきゃいけない理由はどこにもないわ」

 

3、かなわないものを

 

 なんかイベント。

 

4、危機の終わり、二人きりの世界、諦点観測

「なんであなたは、私のことを諦めないの?」

「とっくに諦めてるよ」

「うそ、うそつきだわあなた。あなたは私のことをほっとけないんじゃない、固執してるのよ。どうにかして自分の考えを私に押しつけて染めてしまいたいの。傲慢。わがまま。肉欲の権化」

「ばっ・・! なにが肉欲だ! そんな目で・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ないの? EDなの? あるけどダメなの? ダメよ悩んでもメールにくる怪しい海外マーケットからビッグでヒュージでマグナムな感じのメディスンに手を出そうとするものじゃない。キュルルッ・・それとも、私のカラダってそんなに・・魅力ない・・カナ」

「おまえ後半声変わったじゃねえか! 33kbpsでネット体験版からエンコードした音声ファイルみたいな声だしてさ! 人工音声発生装置みたいな機械音まで最初に入れてずいぶん芸が細かいね!」

「じゃあ、諦める? そういうふざけた私を理由に、諦める? 手にはいるかもしれないものを、ここまで手が届いたことを理由に諦める? いまは、そんな時じゃないからって、また諦めるの?」

「手が届かないところにあるものに手を伸ばしてはいけない」

「なんで?」

「手が届くものだけでも、生きていけるから。手が届かないところになっている実は、誰も取らなかったものだ。誰も、取れなかったものなんだ。そんなものに、手を出しちゃぜったいにけがをしてしまう。そんなの、いまのきみがいちばんわかってるはずじゃないか」

「それみたことかって、言えばいいのに」

「言えるはずがない、ぼくのようなあきらめて生きていく人間は、ちゃんと自覚しているんだ。きみのような人間がけがをして、どうにか高いところにある木の実を取ってくれたからこそ、木の実をとる道具を発明したりして、安全に木の実を手に入れることができるんだから。感謝している。けれどね、ぼくらは、危険を冒すようには、できてないんだ」

「おくびょうもの」

「なんとでもいってくれ。この生き方を、変えることはできない。でもさ、きみは諦めないっていうんだろ?」

「そうよ、アキラ」

「はい」

「いいなまえだよね。分別をつける、できることできないことを見定める。だから、明らかにすることをアキラメと呼ぶんだね。とてもいいことだよ」

「もう、諦めてる。こんな名前だから、こんなめんどくさい女につかまっちゃったんだから」

「そうだよ、そこまで諦めたんだから、いっそ諦めちゃえばいいんだよ、諦めきることに、どうせ、最初から受け身なんだから、諦めることを諦めて、諦めないことをしましょう」

「そんな健全なもの、ぼくには似つかわしくなんかない」

「健全? なんでそんなものをおそれるのかなあきみは。そんなもの、存在しないんだよ。あきらめな」

 ーーことばあそびじゃないか。まったく、結局ぼくの抱える矛盾を解消することはできやしないんだ。

 そんなせりふを用意していたのに、吐き出すことはできなかった。

「んグっ?」

 もしかしたらぼくは、諦めがわるいのだろうか。

 口腔を乙女のように蹂躙されながら、星空の下でそんなことを思う。

「ちがうわ、だってこれはあなたを黙らせるための手段でしかないの。あなたが、心のそこで望んでいたようなことが、この先に起こるかどうかはーーあなたが諦めないかぎり、起こらないからね」

「わかった、わかったよ。なにもかも諦める。そして諦めないことを決めるよ」

「そう、具体的には?」

「きみを、宇宙に帰す」

「気づいてたの?」

「きみが涙ながらに空を見上げる度にケータイが受信できなくなるし、チョコレートは溶け出すし、HDDのエロ画像は消えるし、おまけにきみのパンツ洗濯してるのぼくなんだけどしっぽのところに穴をあけないと履けない地球人は寡聞にして知らないし、あの日あの大量の放射線を受けてなにも影響が残っていないなんてデタラメな技術がこの星ではまだ実用化されてるはずがないしクマムシかおまえは! もういいよ宇宙人で! だから、ぼくも宇宙に行こう!」

「わお」

「それが、ぼくの諦めだ。いいかな?」

「それを諦めなければ、わたしはこの手を離さないわ」

「え、わっ!」

 空を飛んだ

 

「あ、おまえ! 今までこうやって脱出できたのかよ! なんだ! まんまとぼくはハメられたんじゃないか!」

「ツメが甘いってことよ、じゃあ、言質も取ったことだし」

「あ、バカ! やめろ! 成層圏近いから!」

「諦めるな! こんじょー!」

「諦めるとかそういう問題じゃねー! 死ぬ! 低圧症で気を失ってじわじわと死ぬ!」

 

 この辺で終わる